例えば写真。著名な写真家はたくさんいるけど、もし私が家族や恋人の写真を撮ったなら、
決してそれらプロフェッショナル達には負けない。素人の私は、もちろん壁いっぱいに引き伸ばすような
大作は撮れないし、永遠を一瞬に封じ込めたような奇跡を切り取る事も出来ない。でも、大御所達の
作品を見て気付くのは、その腕前や個性が出過ぎて、被写体が死んでいるという事。
例えば女性のポートレート。計算され尽くしたバランスの良いアングルと色や光の使い方。
ちゃんと目の中に星まで飛ばして。完璧に美しいその写真が、でももし被写体だけ他の人物に変わったら、、、。
やはりその写真は高い完成度を保ったまま成立するに違いない。つまりそれは、極端な言い方をすると、
被写体が誰であろうと変わらないと言う事。そんな撮り方が出来るのは写真家の腕ゆえなのだけど、
私の撮りたい写真は、そんなのじゃあない。自然派の写真家もいるけれど、職業写真家が初対面の
被写体から引き出せる表情や仕草の、私は何倍、何十倍も、笑顔やあどけない表情や、
本当に心を開いた時だけにしか見せてくれない家族や恋人の真の姿を知っている。その写真を
一枚定期入れに入れているだけで、いつもその人と一緒にいるような気分になれる、そんな写真が撮りたい。
そして料理も同じ。料理に一番大切な物は愛情だとよく耳にするけれど、じゃあそれは実際にはいったい何?
人により答えは違うだろうが、私はこう答えたい。「目の前に、食べさせたい人の顔を思い浮かべて料理する事」
そうすれば、内容が自ずと変わってくるような気がする。例えば夏ばて気味なら、あっさりした物が
食べやすいけど、身体の事を考えてあえてこってり精のつく物を目立たないように入れるとか、
食欲減退気味なら整腸作用のある食材を使うとか。
高級食材など絶対的金額や料理の腕もさることながら、ちょっとでもより美味しい物を食べさせて
あげたいと思う気持ちが、同じ食材でも、もう一手間かける事によって劇的に美味しくなるとか。
自分で食べる料理を作るのでも、美味しいものを食べる事=幸せ、が体感できれば、今までは
面倒臭いと思っていた手間が、期待の喜びに変わるはず。どんな高級レストランも最終的に家庭の味に
勝てないのは、結局そう言う事なんじゃあないかと思う。
隠し味は裏技じゃあない。「あの人は酸っぱめが好きだから、レモン汁をひと絞り。」
そう言うのが原点かも知れない。たったその程度の事だけど、あなたしか知らない秘密のレシピ。
強い調味料で味を隠すのではなく、素材を生かして、ちゃんと魚の味がするとか、肉の味がするとか、
野菜の味がするとか。料理から季節を感じ、寒い日には暖まり、落ち込んだ時には深い味わいに癒やされ。
そう言った料理が出来れば、あなたのいるべき場所では、皆それぞれが世界最高のシェフになれるはず。
このページを訪れてくれた皆さんが、今日も誰かを幸せにする料理を作っていればいいですね。
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